個人の尊重と基本的人権への配慮

憲法13条

「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

自己決定の尊重は、憲法の基本原理ともいうべき個人の尊厳に基づきます。成年後見制度もその理念の基本は、自己決定の尊重です。自己決定を援助するということが制度の趣旨になります。

判断能力を欠く常況にありながらも、本人の内的意思をその残存能力から探りながら、本人の人権を尊重して、十分配慮をする感覚を持っていることが、法律論以前の、後見人としての前提条件と思います。

本人に意思能力はなくても、尊重されるべき人権があります。後見人は被後見人の調整役ではなく主張役であると思います。

成年後見人の職務の見出し

成年後見人の義務
成年後見人の資格と欠格事由
成年後見人の職務
成年後見人の権限
成年後見等の終了
成年後見の費用と報酬

成年後見人の義務

身上配慮義務(民法858条)

「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養監護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」民法858条

これは身上配慮義務といわれています。この義務は成年後見人が本人の身上面について負うべき善管注意義務の内容を具体化し明確にしたものとされています。さらにこの義務は、本人の身上面に対する配慮を後見事務の指導理念とすることによって、後見人の職務の実効性を確保しようとするものです。この身上配慮義務は、心情監護の面だけではなく、財産管理にも及びます。成年後見人は、本人の生活や療養監護の事務を行うほか、本人の財産を本人の利益のために管理しなければなりません。そのため、身上配慮義務を遂行するには、本人の移行を十分配慮し、本人をよく見守る活動が必要になります。


善管注意義務(民法644条・869条)

「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」民法644条。「受任者の注意義務、後見において準用する」民法869条

善管注意義務とは、職業上や社会通念上、客観的に期待される程度の注意義務で、自己の財産におけるのと同一の注意をなす義務(自己同一注意義務)よりも重い義務です。この注意義務を怠って何らかの損害や損失を与えた場合は賠償責任を負うことになります。

成年後見人は被後見人を保護する立場にあることから、後見人には常に、善良なる管理者の注意義務が要求されます。


義務不履行

成年後見人は、被後見人に対し、善管注意義務を負担し、被後見人の財産を管理し、身上に配慮する義務を負担しています。

後見人が被後見人に損害を与えたとすれば、後見人は、善管注意義務および身上配慮義務を果たしていなかったということになります。

家庭裁判所は、被後見人もくしは親族等の請求または職権によって、後見人を解任できます。親族等は、後見監督人にその事実を知らせ、後見監督人に後見事務や財産状況の調査をしてもらうこともできます。後見監督人や親族等は、損害の拡大を防ぐために家庭裁判所に必要な処分を請求することもできます。

後見人が故意または過失によって、違法に被後見人の権利を侵害したような場合は、後見人は被後見人に対し、不法行為責任を負い、当該行為と相関因果関係にある損害を賠償する責任があります。また、後見人の行為が背任や横領等の構成要件に該当する場合、後見人は刑事責任を問われる事もあります。

成年後見人の資格と欠格事由

資格の要否

後見人となるのに、特別な資格はありません。現在の後見人は、その約8割がご親族の方で、残りが第三者後見人になります。

しかし、特別の資格が要求されないからといって、誰でも成年後見人になれる訳ではありません。民法847条にて欠格事由を定めています


欠格事由

「次に揚げる者は、後見人となることができない。1.未成年者 2.家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人 3.破産者 4.被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族 5.行方の知れない者」民法847条


成年後見人の推薦(候補者)

申立てにあたって、申立人が、成年後見人として適当と考える人を推薦する事は可能です。その人の承諾をえて後見人等候補者として申立書に記載します。申立人が、自分自身を成年後見人候補者として推薦することも可能です。

しかしながら、成年後見人は家庭裁判所が職権で選任するものであって、申立人による後見人候補者の推薦は、裁判所の判断を拘束するものではありません。

裁判所は、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年後見人との利害関係の有無、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮して、成年後見人を選任します。一般的に、申立人と他の親族との間に紛争がある事案では第三者を後見人として選任することが多く、他方、紛争性のない事案では推薦に基づいて選任しています。


成年後見人の職務

財産管理と身上監護

成年後見人の職務は、「本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、必要な代理行為を行い、財産を適正に管理していくことです。

職務内容は、生活、療養看護及び財産の管理に関する事務です。これらの職務を遂行するために、成年後見人には包括的な代理権と取消権が与えれています。

これは、遺言や身分行為等の本人でなければ出来ない法律行為を除き、本人の生活に必要な法律行為全般を意味し、事実行為は含まないとされています。


就任時の事務と主な職務

成年後見人に選任された以降、すぐに行うべき事務を列記すると、1.家事審判事件記録の閲覧・謄写 2.関係者・本人との面談 3.管理すべき財産関係の書類や印鑑等の引き渡し 4.金融機関等への就任の届出と必要に応じて口座開設 5.登記事項証明書の入手 6.財産目録の作成 7.年間支出額の予定と支払金確保の計画 8.後見人の被後見人に対する債権債務の申し出

家庭裁判所は成年後見人を監督するために、後見事務の報告を求めることになっていますので、その際の報告書の提出も後見人等の職務になります。


具体的な法律行為

財産管理では、1.預貯金の管理 2.収入・支出の管理 3.税務処理です。

居住の用に供する不動産(社会通念上の自宅)の処分は、本人の生活、身上、さらには精神面にも大きな影響を与えるため、身上監護の観点から、後見人等の権限を制限し、家庭裁判所の許可が必要です。この処分とは、売却だけに限らず、賃貸、賃借権の解除、抵当権の設定、その他それに準ずる行為です。

身上監護では、1.医療に関する契約 2.介護等に関する契約 3.住まいに関する契約 4.施設に関する契約とその履行 5.教育・リハビリに関する契約です。

医療に関する契約では、医療、診療を受ける契約を結ぶ権限はありますが、医的侵襲行為に対する同意権はありません。

病院や施設の保証人には、後見人が個人として保証すべき義務はありません。

成年後見等の権限

包括的な代理権と制限事項

成年後見人には、財産に関する法律行為について包括的な代理権が与えられています。ただし、本人保護・意思尊重という趣旨から、いくつかの制限が加えられています。

居住用の不動産の処分については、身上監護の観点から、本人の生活、心情、さらには精神的にも大きな影響を与えるため、家庭裁判所の許可が必要になります。この場合の処分とは、売却だけに限らず、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定、その他それに準じる行為になります。

また、成年後見人と被後見人間で利益が相反する行為については、家庭裁判所へ特別代理人の選任を請求しなければなりません。


第三者に対する損害

被後見人が第三者に損害を発生させた場合は、本人に責任能力がある場合とない場合と分けて考える必要があります。さらに、成年後見人が身上監護義務や身上配慮義務を尽くしていたかどうかや、本人に対して見守り活動を十分に行っていたどうかの、被後見人の不法行為と後見人の義務違反の因果関係の総合判断によります。

この因果関係が認められるときは、不法行為が成立するものと解されて、一定の要件の下で責任を負うことがあります。


権限のない事項

婚姻・離婚・認知・養子縁組・離縁・遺言などの一身専属権である身分行為については、後見人の権限が及ばないことになっています。

遺言能力のある被後見人のなした遺言は、成年後見人は取り消すことができません。被後見人が遺言をする場合は、被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時に、医師2人の立会のもと、2人の医師が事理弁識能力が欠く状況になかったこと旨を遺言書に付記し、署名・押印すること等の特別な手続きが必要になります。

成年後見等の終了

後見等の終了事由

成年後見の終了事由は、成年後見それ自体が終了する場合(本人の死亡・後見等開始審判の取消し)と成年後見自体は終了しないものの、後見人との関係では成年後見の法律関係が終了する場合(後見人等の死亡・選任審判の取消し・辞任・解任・資格喪失)があります。

前者の場合は、後見自体が終了するので、管理財産の計算、終了登記、終了報告が必要となります。後者の場合は、被後見人本人のために後見が継続するので、新たな後見人の選任が必要になります。


終了時の職務

後見等終了としてよくある被後見人等が死亡した場合では、1.死亡届の提出 2.被後見人死亡の報告 3.後見終了の登記の申請 4.後見の計算(清算事務) 5.報酬付与の申請 6.管理財産の相続人への返還及び一時保管 7.家庭裁判所に対する後見事務終了報告。

成年後見の費用と報酬

後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支出できます。民法861条2項。この規定は。保佐・補助に関しても準用されています。

報酬の付与については、後見人等の申立てにより家庭裁判所が審判で決定します。その期間に付いては後払いが原則で、通常は1年間分になります。

成年後見人等と本人との関係について

平成17年度の全国の家庭裁判所の成年後見関係事件の概況より

成年後見人等(成年後見人、保佐人及び補助人)と本人との関係をみると、子、兄弟姉妹、配偶者、親、その他の親族が成年後見人等に選任されたものが全体の77%を占めていますが、その割合は年々減少傾向にあります。

前年の引き続き、親族以外の第三者が成年後見人等に選任される割合が高まっています。親族以外の第三者としては、司法書士(8.2%)、弁護士(7.7%)、社会福祉士(3.3%)です。

また法人が成年後見人等に選任される割合も高まっています。全体では1%ですが対前年対比で約83%の増加となっています

成年後見人等は、自然人だけでなく、法人もなることができます。これまで裁判所で、法人後見人に選任された例では、司法書士で組織化された社団法人成年後見センター・リーガルサポート、社会福祉協議会、福祉公社等になります。

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